西園先生追悼
当院でながらくスーパーバイザーとしてご指導頂いた西園先生が先日亡くなられました。93歳の御年で亡くなる前日までお元気で、若手医師や看護師の指導のための講義の資料を準備していらっしゃったそうです。日本に精神分析を導入した古澤平作先生から学び、戦後日本の精神分析・力動精神医学の先駆者として、九州大学、福岡大学で教鞭をとられ、国内外の学会を盛り立てて、日本の精神医学、精神科医療の発展に尽力してこられた巨星のような先生でした。
僕が西園先生に出会ったのは、精神科医を志して右も左もわからずに研修を始めた2005年頃でした。当時はまだ専門医制度は無く、体系だった研修プログラムはあってないようなものでした。現在の専攻医の先生たちのように症例集めや試験に奔走する必要がない代わりに、何を頼りに、何を基準にすれば一人前になれるのか見当もつかず、非常に心細かったのを覚えています。毎週水曜日の夜に若手医師向けに「精神療法講座」という勉強会をしているので、良かったら来なさいと声をかけて頂きました。
精神療法にとってまず基本となる前提は何か?治療者・患者関係とは何か?治療の展開の中で関係性はどう変わっていき、治療者自身は自らの逆転移をどう受け止めたら良いのか?フロイトが、メラニー・クラインが、ウィニコットがそれぞれ見出した人の無意識に関する重要な学説はどのようなものか?・・・。色々なことを習いました。でも、僕が一番先生から教わった大切なことは、若手医師の不安、疑問をいつも変わらない温かい態度で受け止め、コメントを投げ返し、若手自身に考えさせる先生の挙動そのものだったと思います。それはそのまま、診察室で患者さんの悩みを受け止めるための、自らの立ち居振る舞いに活きました。何年間も先生の講座に通って、「精神療法的態度」とは何か、「父性」とは何かを、頭ではなく、身体で教え込ませてもらったと思います。
大学時代にお世話になった第三内科の植村和正先生が言っていました。「研修医時代に心の拠り所になる指導医は、最低限一人いれば良い。どれだけ迷って、困っても、『あの先生に相談しよう』『あの先生だったらどうするだろう?』と考えて、くじけずに進んでいけるから」と。僕にとって西園先生は、まさにそのような存在でした。 先生の10分の1も出来ていないと思いますが、次の世代を担う若手が元気に育っていけるように自分の出来る事を頑張りたいです。西園先生、本当にお世話になりました。先生のおかげで今、自分の足で歩けています。
福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸