福間病院 福間病院精神科
専門研修プログラム

医療法人恵愛会福間病院

臨床研修センターだより

学会は精神科医にとって「フェス」のようなもの

日本精神神経学会が福岡で開かれているので参加してきました。精神科界隈で一番大きな学会だけあって、同時並行でA~Q会場まで17箇所でプログラムが進行していて、いや多すぎやろっていう感じなのですが、普段の診療から離れて自分の興味の赴くままに面白そうなシンポジウムを聴講してまわるのは結構楽しいものです。職場で留守番の先生方には申し訳なかったですが、福間病院はお医者さんの数が多いので、学会出張の休みは取り易くて良いです。
自分は主にトラウマ関連のシンポジウムに参加してきました。トラウマはEMDRとかトラウマ焦点化治療とか特殊な技術が必要で、敷居が高いって印象を持っていたのですが、トラウマを直接扱わない技法とか、分かりやすいリーフレットを用いた心理教育とかあって、日常診療でももっと気軽に取り扱うことが出来るんだなと分かって気持ちが楽になりました。久留米大学の大江美佐里先生がシンポジウムやワークショップを主催して、一般臨床医へのトラウマ診療の啓蒙活動を積極的になされているようでした。大学の准教授の先生で色々なお仕事を抱えて忙しい中、このようなすごく意味のある活動をされていて本当に凄いなと思います。ワークショップの後で勉強になりましたと名刺渡してご挨拶させてもらって、あとで著書を買いました。学会って、新たに興味を持って勉強しようと思える分野が増えるので良いきっかけになります。
学会会場をウロウロして、知り合いの先生にばったり会って「ご無沙汰です」って挨拶したり、書籍コーナーをのぞき込んでみたり、普段名前しかしらない高名な先生の講演をクーラーの良く効いた大会場でライブで聞いたりして雰囲気を楽しみました。言ってみれば、学会は精神科医にとっての「フェス」みたいなものなんだろうと。
 普段、職場でいつもの診療をやっているだけだと、どうしても視野は狭窄の方向に傾くのですが、学会への参加は視野を広げるのにもってこいです。広い会場を何千人の参加者がゾロゾロ、ウロウロ、ワイワイしていて、この人たち全員精神科医なんだな~と思うと、あらためてなんか凄いなと思います。で、その先生たちが思い思いのシンポジウムを聴講していて、自分もその中の一人ってことで、広い精神医療業界に身を置いて、自分の立ち位置を模索していることがリアルに体感出来て、やっぱり現地参加っていいなと思いました。聞き逃してしまった気になるシンポジウムは、あとからオンデマンドで聴講しようと思います。つくづく便利な時代になりました。

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸

大隈先生の摂食障害講義

ちょっと前の話になりますが副院長の大隈和喜先生が、若手医師向けに摂食障害の講義をしてくれました。大隈先生は心療内科医として長年、摂食障害の診療に携わってこられました。摂食障害、中でもその中核群である神経性食欲不振症は、精神疾患の中でも特に治療の難しい大変な病気です。僕も若い頃、精神力動的なアプローチからの治療の本などを読んで、それはそれで面白かったのですが、よっぽど患者さんと(精神的に)取っ組み合いのような治療者患者関係になって、山あり谷ありの道筋を辿らなければ治っていかないんだろうと感じていました。そのまんま、摂食障害の治療にしっかり携わる機会は無くこの年になるまで仕事してきたわけですが、大隈先生の講義を聞いて、色々「そうだったのか」と目からウロコが落ちる思いがしました。
大隈先生が、先生のお師匠さんの深町建先生から学んだ理論によると、典型的な神経性食欲不振症の経過は「発端→やせの蜜月期→蜜月期の破綻→過食衝動の出現、悪い自分(人格の分裂)の出現」という決まったパターンを辿るようです。それぞれの経過の出現にはすべて生理学的な理由があり、例えば「やせの蜜月期」は飢えかけた動物が残りのエネルギーで効率良く食べ物を見つけようと集中力のスイッチを入れている状態にあたるそうです。あたかも人格が分裂したようになって「悪い自分」が出現し、行動をコントロールしてしまう心理状態は、摂食障害の患者さんでは高頻度に体験されることのようです。また、病気を「悪い自分」と見立てて外在化して立ち向かう手法は、治療者、患者ともに取り組みやすい枠組みだと思われます。患者さんとご家族へ、病気の正しい知識と明確な治療法を提示した上で、しっかりとした枠組みの中で治療を行っていくスタイルは、無意識の転移・逆転移を取り扱う力動的アプローチと違ってクリアカットで分かりやすく、若手医師にも取り組みやすいものだと思いますし、近年は精神科でもトラウマ・インフォームド・ケア等の心理教育的手法が発達してきて、こちらの治療スタイルに寄ってきているのではないかと感じます。詳しい理論を知りたい場合は、古書ですが深町先生の著作を読むと良いようです(「摂食異常症の治療」「続・摂食異常症の治療」深町建,金剛出版)。
「理論を理解した上で新患の陪席についてもらったら、何をやっているのかよくわかるから」と若手向けに行っていただいた講義で、僕が先生の講義を聞くのは2回目ですが、あらためて勉強になりました。すでに先生の診療の陪席についている若手もいるようです。大隈先生、これからもよろしくお願いします!

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸