福間病院 福間病院精神科
専門研修プログラム

医療法人恵愛会福間病院

臨床研修センターだより

指定医レポート添削中 (*´Д`)

そろそろ指定医申請の時期です。提出期限を2か月後に控え、3年間の実務経験を終えた先生たちから「レポート書いたのでチェックして下さい」と頼まれます。普段の臨床でケースカンファする時とかは「この用語の使い方は正確じゃない!」とか細かいことはあんまり言わないのですが、指定医レポートは別。厚労省からしてみりゃ、患者さんを強制入院させたり行動制限したりする権限を認める資格なので、法律上も医学上もきっちりとしたレポートを書かないと、「いい加減な奴に資格はやれん!」とバッサリ落としてくるわけです。僕が指定医を申請した頃も、「そんな重箱の隅で落とすの?」と、情け容赦なくレポート突き返された同僚を見ていたので、必死で準備しました。
「指定医レポートほど油断のならないものはない。」そういう先入観があり、かつA型性格の僕はかくしてこの時期、添削マシーンと化すわけです。「『100字程度で書くように』という欄の字数数えたら105字だった。これやばいんじゃないの?」「ここの言い回し。日本語としてちょっと不自然なんじゃないの?」「あ!ここの☑ボックス、入れ忘れてる!」本質的にはそんなこと、どうでも良い事なんですけどねぇ…。もちろん、法律上必要な記載に漏れがないか、主治医としてしっかりと診断・治療に関わったことが文章上に表現されているかどうか…。
要点確認しないといけないこともてんこ盛り。「この症例の肝はここだから、こう直した方が良いんじゃないの?」と赤ペン入れて、修正文を提案して、また書いてきてもらって…。ひとつの症例でたいてい3回はやりとりします。 普段の臨床とは使う脳の部位が違うので、平日の仕事終わって草臥れている状態だとはかどらないんですよねぇ。だから今日みたいな、休日のうららかな春の午後に取りかかることになる…。この仕事いつか誰か、代わりにやってくれないかなぁ…。でも僕より強迫的なキャラのやつ、あんまり居ないしなぁ…。みんな一生懸命書いてくるからなぁ…。まあ、とにかく頑張ろ!寸分の隙なく練り上げられたレポートって、読んでいて美しいしな♪(←強迫性格)

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸

2022年センター長挨拶

当院の精神科専門研修プログラムのホームページに目をとめて頂きありがとうございます。日本専門医機構による新専門医制度が発足して5年目の春を迎えます。当院のプログラムの特色は、確かな資質と能力を持った精神科臨床医を育てるための、徹底した現場でのトレーニングです。今年度は新たに3名の新入職の先生と、福岡大学から1名の研修の先生をお迎えすることが出来ました。
今年度から研修内容に大幅な変更を加えました。これまで専攻医の先生方にはスーパー救急病棟の専属医として、急性期の入院治療を中心に研修を行ってもらっていましたが、コロナ禍でこの2年間、入院件数が減少したことと、研修する先生の人数が増えたことで、一人当たりが担当する症例数が減ってしまい、研修の密度が薄くなってしまう問題が生じました。そのため、研修のフィールドを4つに広げ、多角的に様々な経験を積んでもらうことにしました。1つ目はこれまで通り、スーパー救急病棟で急性期症例の担当です。急性期は患者さんの病像、精神症状が短期間で劇的に変化し、治療の効果やゴールも見えやすいため、初学者が経験を積むのに最適です。当院は地域の精神科中核病院であるため、様々な病態の患者さんが入院してきます。マンパワーとハード面の整ったスーパー救急病棟で、主治医として責任を持って患者さんを退院まで担当することで、精神科医療のもっともダイナミックな側面を学ぶことが出来ます。困った時は指導医に相談し、精神科医としての面接の技術はアドバイザーから実践を通して学びます。当院の強みである多職種チームと日々協働するのも、この場です。患者さんを第一に考えた看護を展開する看護師チーム、健康な面を引き出しリハビリテーションの礎を作る作業療法士、地域社会への復帰を進める精神科ソーシャルワーカー、そして公認心理士などの多職種チームの中で、チーム医療を実践できる精神科医としての素養を鍛えます。
2つ目のフィールドは外来です。自らが担当した入院患者さんの退院後のフォローアップを行うことはもちろん、様々な症状、不調を抱えた外来新患を1年目から診察します。最初は先輩医師の新患の予診を取り、本診に陪席して自らの病歴聴取と先輩のそれとを照らし合わせます。新患診察は必要な情報を聴取し、診断と治療方針を組み立てることに加え、患者さんと主治医との間で治療関係を結ぶ大切な時間です。自らが主治医となったらどうするのかを念頭に置き、先輩医師の診察から真剣に学び取ってもらいます。力がついてきたら、先輩医師の指導の下、主治医としてフォローアップを担当する段階へと移行します。
3つ目のフィールドは療養病棟です。病状の重さや社会的要因から入院が長期化せざるを得なかった患者さんを担当することで、急性期とはまた違った困難さを直に体験してもらいます。陽性症状や認知機能障害を抱えながらも、日々の病棟の現実生活を生きる患者さん達から学び取れることは多くあります。
4つ目のフィールドはデイケアです。デイケアは利用者さんの病気の側面よりも、健康な側面に焦点を当ててリハビリテーションを進める、とても大切な部門です。我々医師は職業柄どうしても、患者さんの症状や病気に目を向けがちです。病気を治そうとするあまり、患者さんの保持している健康な側面に目がいかないことで、回復の糸口を見逃してしまう落とし穴が存在します。デイケアで利用者さん達のグループに一スタッフとして参加し、一緒にスポーツをしたり、SST等でロールプレイやディスカッションをする経験から、入院や外来では見えてこなかった生き生きとした個性や強みを体感することが出来ます。利用者さん同士が主体性を持って交流し支え合う、デイケアならではのグループの力も感じ取ることが出来るでしょう。
以上述べたように、当院で展開される様々な医療現場を精神科医の教育のために全開放していくという、いわば挑戦的な試みを4月から新しくスタートしたばかりですが、研修内容は今後も先生方の意見を聞きながら適宜修正を加えていく予定です。専攻医の先生方には忙しくも豊かで充実した研修を過ごしてもらいたいと思っています。2023年度の専攻医の募集は8月から開始しますので、少しでも興味を持たれた研修医の先生は是非早めに見学に来てください。精神科医としての確かな臨床能力を身に付けたいと思っている、やる気のある先生方を募集します。精神保健指定医、精神科専門医の取得はもちろん、劇的に変化していく令和の時代に対応して、患者さんのために臨床を実践していける資質を持った精神科医を目指して、初めの一歩を当院から踏み出してみませんか?精神科臨床を志す皆さんの見学、応募を心よりお待ちしています。

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸

旅立ち

今年も年度末を迎えました。当院で2年間研修を受けた専攻医の先生たちが、4月から連携病院に移動となります。 山口県立こころの医療センターさんと、長崎県の道ノ尾病院さんです。それぞれ当院にない特色と専門性を持った病院で、専攻医の先生たちにとってはそれまで福間病院しか知らなかったのが、初めて食う「他院の釜の飯」です。治療文化の違いに目を開かれることも多いでしょうし、2年間当院で修行した自分の臨床能力が他所でどのくらい通用するのか試す、すごく良い機会になるでしょう。これまでの経験からも、一度連携病院に出た先生は一回り大きくなって自信をつけて帰ってきます。ぜひ頑張ってほしいと思います。

当院を旅立っていく先生もいます。3年間の専攻医研修を無事終えて、更に自分のサブスペシャリティを磨くために別の病院に就職して行きます。 寂しい気持ちもありますが、彼の人間性と臨床能力は病棟の看護師さんたちも含めて誰もが認める所です。きっと新しい病院で生き生きと更なる成長をしていくことでしょう。 週1回は当院に非常勤で戻ってきて、自分の外来患者さんは引き続き担当してくれるので、「自分の担当患者さんを長い経過で診る」という、若い精神科医の成長にとって大切なポイントも取りこぼしていません。 ある意味、理想的と言える旅立ち方かもしれません。

当院出身の先生方だけではありません。今年度は福岡大学病院から2名の若手の先生が半年ずつ研修に来られました。「患者さんとのコミュニケーションと症状評価を大事に、一例一例丁寧に診る」「現場でみんなで患者さんを診る」という当院の研修スタイルがどれだけ役に立ったのか、はたまた現場優先主義でacademicな面で物足らなさを感じたのか分かりませんが、大学病院とはまた違う環境で、試行錯誤しながら一生懸命研修に取り組まれたと思います。 当院での研修が、今後一人前の臨床医になっていくための「成長の芽」となれば嬉しいなと思います。

来週からはまた新しい専攻医の先生たちがやってきます。今年度の若手の先生たちからもらったフィードバックを参考に、研修内容をさらに改変していく予定です。

3月31日午後7時。空っぽになった医局デスクを見ると、巣立っていったんだなと実感が湧いてきました。みんな頑張ってね。俺も頑張るから。

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸

みんなで精神病理

有志の勉強会を始めました。題して「みんなで精神病理」。
テキストは10月4日のセンター便りで紹介した「症例でわかる精神病理学」。
2週間に1回金曜日の夕方に、勉強したいメンツで集まって、あらかじめ決めてきたテキストの該当箇所をもとに疑問点や意見など、思い思いに語り合います。普段一人で勉強しているのと違って、それぞれの解釈を語りあったりディスカッションしたりして進めるのは楽しいです。
若手~中堅向けに始めた勉強会ですが、どちらかというと中堅の先生たちで集まってやっています。
ある程度臨床を経験して、現場で色々と診断や治療について思う所が増えると、もう一度しっかりと学びなおしてみたくなるし、それについて語り合ってみたくなるんでしょうか。
2月10日の範囲は統合失調症の「妄想」について。そもそも色々な経過、症状の組み合わせを含んだ診断で、単一の病気とみなしてよいのか100年以上議論がなされています。
妄想を発生的に了解可能と取るか取らないか・・(少なくとも「了解」の物差しで診てみるか)、SNSやインターネット全盛の時代で疾患そのものの質が変わってきているのではないか、そうはいっても一つ一つの症状に対して言葉を尽くして丹念に分析されたヤスパース達の努力は、僕ら精神科医が患者さんの苦しみを理解するためのfast passになっているのではないか・・等々思い思いに話しているうちに1時間あっという間に過ぎました。
再来週は「記述精神病理学」が扱う統合失調症の「幻覚」について。気軽にワイワイとやっていこうと思います。

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸

精神科面接のアドバイスシート

精神科面接ではいかに患者さんとコミュニケーションをとり、症状評価を行うと同時に治療者患者関係を築き、治療計画に繋げていくかが問われます。精神科面接は精神科医の一番の基本技能といって良いでしょう。外科医なら手術のスキルに該当するほど大切なものです。外科の専攻医は先輩の先生と一緒に手術を執刀し、直接手ほどきを受けます。でも、精神科の専攻医は自分の面接技術を直に指導医にみてもらい、フィードバックを受ける機会が思いのほかありません。基本、精神科面接は患者さんと1対1で行うものだからです。
当院にはUCLA客員教授の山本タカタ先生が、週2日程専攻医の先生方の指導に来て下さっています。山本先生は精神科におけるコミュニケーション技術と症状評価の専門家であり、若手の先生たちにとっては自らの面接技術のアドバイスを受けるまたとない機会です。ただ残念なことに、これまで山本先生と若手とで回診した際に、症例そのものの診断や治療についてのディスカッションはなされるものの、若手の先生の面接技術それ自体にフォーカスした指導はあまり行われていませんでした。症例ベースでのディスカッションなのでどうしても症例そのものに意識が向いてしまうことと、日本人特有の「遠慮」の文化が働いて、自らの面接そのものに指摘をもらうのは駄目出しをもらったような錯覚になってしまう感覚もあり、面接技術のフィードバックは曖昧なものに終わっていました。
それで今年度から工夫したのですが、専用のアドバイスシートを作成し、回診で専攻医の先生が患者さんと面接するのを山本先生に付き添ってもらい、後から面接において「良かった点」と「さらに改善すると良い点」を口頭+書面でフィードバックしてもらうことにしました。これは指導する側もされる側も変に遠慮せずに行えるので好評です。今後も現場の指導にちょっとした工夫を加えて、研修の効率を上げていきたいと思います。

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸

堀先生と山本先生の回診

先週の12月15日(木)、週1日外勤で来られている福岡大学准教授の堀先生に病棟での症例ディスカッションに加わって頂きました。普段はスーパーバイザーの山本先生と若手で患者さんの問診を行ってBPRS(簡易精神症状評価尺度)で精神症状を評価しているのですが、せっかく堀先生が来てくださっているのに、若手の研修に活かさなければもったいない!ということで入って頂きました。
結果、回診はとても盛り上がり、若手の先生たちもすごく勉強になったようです。統合失調症の診断範囲を、古典的で狭義のものにとどめる山本先生と、現在の診断基準に照らし合わせて広めにとる堀先生とのディスカッションを聞くことで、精神科の診断には色々な捉え方、見方があるのだということが実感として分かったようです。一人の指導医に教えてもらうのも良いですが、二人以上の指導医がディスカッションし合うのを聞くのは、また違ったスタイルの学びに繋がるんですね。堀先生にはこれからも定期的に若手の指導にお付き合い頂くことになりました。これからもどうぞよろしくお願いします!

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸