福間病院 福間病院精神科
専門研修プログラム

医療法人恵愛会福間病院

臨床研修センターだより

指定医取得!

当院で専攻医を卒業した2名の先生がこのたび、無事に精神保健指定医の資格を取得しました!新専門医制度が始まった最初の年、2018年度に入職して3年間の専門医研修を終えた後、4年目で院内での責任も増えて忙しい中、指定医取得に向けて講習会、レポート作成、口頭試問を着々とクリアし、晴れて精神科5年目の初頭に指定医になることが出来ました。取得のスピードとしてはほぼ最短、ストレートで取得したと言って良いと思います。センターとしても嬉しいこと、この上ないです。おめでとう!
指定医になるための一番の関門はケースレポートの作成です。必要な要件を満たした症例に主治医としてしっかり関わっているか、精神保健福祉法をしっかりと理解して、法的に定められた手続きに沿って人権に配慮しつつ入院治療を行ったか、医学的にみて診断、治療内容は妥当か。これらのポイントを全て満たしつつ2000字の字数制限の中でレポートを作成しなければいけません。適切な症例を5つ選んでまずレポートを書いてもらい、指導医との間で何度もチェック、修正のやり取りをして仕上げていきます。
作成指導をする際に、当院の連携病院になって頂いている山口県立こころの医療センターの兼行浩史先生が作成された「適切な新規申請のために」の手引きが非常に参考になりました。兼行先生、ありがとうございました!この手引きは講習会にて配布されます。また、当院でも独自にケースレポート作成の要点をまとめた手引きを新たに作成しました。今後取得を目指す後輩の先生方の参考になる内容だと思います。
指定医を取得するために通る一連の申請手順は、自らの医療が法的に見て正しく適切なものなのか、あらためて勉強しなおす絶好の機会ですし、責任ある資格を得るにあたって欠かすことのできないイニシエーションだと思います。ここからが責任ある精神科医師としてのスタートですが、ひとまずはお二人の門出を祝福したいと思います。本当におめでとう!

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸

西園先生追悼


当院でながらくスーパーバイザーとしてご指導頂いた西園先生が先日亡くなられました。93歳の御年で亡くなる前日までお元気で、若手医師や看護師の指導のための講義の資料を準備していらっしゃったそうです。日本に精神分析を導入した古澤平作先生から学び、戦後日本の精神分析・力動精神医学の先駆者として、九州大学、福岡大学で教鞭をとられ、国内外の学会を盛り立てて、日本の精神医学、精神科医療の発展に尽力してこられた巨星のような先生でした。
僕が西園先生に出会ったのは、精神科医を志して右も左もわからずに研修を始めた2005年頃でした。当時はまだ専門医制度は無く、体系だった研修プログラムはあってないようなものでした。現在の専攻医の先生たちのように症例集めや試験に奔走する必要がない代わりに、何を頼りに、何を基準にすれば一人前になれるのか見当もつかず、非常に心細かったのを覚えています。毎週水曜日の夜に若手医師向けに「精神療法講座」という勉強会をしているので、良かったら来なさいと声をかけて頂きました。
精神療法にとってまず基本となる前提は何か?治療者・患者関係とは何か?治療の展開の中で関係性はどう変わっていき、治療者自身は自らの逆転移をどう受け止めたら良いのか?フロイトが、メラニー・クラインが、ウィニコットがそれぞれ見出した人の無意識に関する重要な学説はどのようなものか?・・・。色々なことを習いました。でも、僕が一番先生から教わった大切なことは、若手医師の不安、疑問をいつも変わらない温かい態度で受け止め、コメントを投げ返し、若手自身に考えさせる先生の挙動そのものだったと思います。それはそのまま、診察室で患者さんの悩みを受け止めるための、自らの立ち居振る舞いに活きました。何年間も先生の講座に通って、「精神療法的態度」とは何か、「父性」とは何かを、頭ではなく、身体で教え込ませてもらったと思います。
大学時代にお世話になった第三内科の植村和正先生が言っていました。「研修医時代に心の拠り所になる指導医は、最低限一人いれば良い。どれだけ迷って、困っても、『あの先生に相談しよう』『あの先生だったらどうするだろう?』と考えて、くじけずに進んでいけるから」と。僕にとって西園先生は、まさにそのような存在でした。 先生の10分の1も出来ていないと思いますが、次の世代を担う若手が元気に育っていけるように自分の出来る事を頑張りたいです。西園先生、本当にお世話になりました。先生のおかげで今、自分の足で歩けています。

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸

2019年センター長挨拶

福間病院の「精神科専門医養成プログラム」のページに目を留めて下さり有難うございます。当院は「精神病者に光と土を」のスローガンのもと、60年余にわたり精神障害の治療とリハビリテーションに一貫して取り組んできました。玄界灘に開けた3万坪の広大な庭園の敷地にて、急性期治療(スーパー救急病棟、ストレスケア病棟)から外来、社会復帰(デイケア、グループホーム、就労支援施設)まで、ひとつながりの治療環境の中で若手精神科医の臨床研修に力を入れてきました(1983年 臨床研修病院登録、2006年 後期臨床研修プログラム立ち上げ、2018年 新専門医制度精神科専門研修プログラムに参画)。
福間病院の専門研修プログラムの特色は徹底した現場での指導です。スーパー救急病棟の専属医となり、上級医指導のもと精神科急性期の治療経験をしっかり積んでもらいます。スーパー救急病棟には統合失調症、気分障害を始めとして、様々な疾患圏内の症例が数多く集まります(一人の専攻医につき、3年間で150~200症例を経験)。診断に苦慮するケース、治療が一筋縄ではいかないケースで悩み、看護師、PSWなどの多職種連携チームに助けられることも多々あるでしょう。入院で担当した患者さんを引き続き外来主治医として受け持ち、回復してデイケアプログラムで見せる健康な側面に目を見張ることもあるでしょう。福間病院には臨床を、患者さんのリカバリーを第一に考える治療文化が息づいています。
初期の数年間の濃密な臨床経験が、精神科医として生涯を歩んでいく上での確かな芯(コア)になります。患者さんを「診る」臨床能力が、精神科医の職業アイデンティティの一番の拠り所だからです。専攻医の日々の研修を支えるのはマンツーマンの上級医師の指導、多職種連携チームの力に加えて、何よりも患者さんやそのご家族から直接教わる経験です。それらに加えて現場でのコミュニケーショントレーニング(山本タカタ先生)、症状評価の指導(BPRS研究会)、豊富な症例検討会の機会(医局集談会)、教育の機会(西園教室、西村教室。力動精神医学を中心に)が専門医としての技術、知識を大きく補完します。医局は精神科医師20名、内科医師3名、歯科医師1名、医局秘書2名の大所帯で、先輩医師や研修同期と支え合って成長していくことが出来ます。当院である程度の基礎を身に付けたうえで、その他のサブスペシャリティの研修のために連携施設(大学病院、依存症、児童、認知症、うつ病治療を専門とする単科精神科病院)で学ぶことも可能です。研修を終え精神科専門医や精神保健指定医の資格を取得した後、そのまま当院にスタッフとして残り回復期リハビリテーション等について更に深く学び、当院のチーム医療を担うリーダーとなっていく道もありますし、博士号取得やキャリア形成のためにあらためて希望の大学に入局するのも良いと思います。専攻医の先生方の初期3年間の研修内容の充実と、安心して研修に取り組めるための環境づくり、資格取得のサポート、その後のキャリア形成の相談にのるのが臨床研修センターの役割です。精神科医としての確かな臨床能力を身に付けたい、やる気のある専攻医の先生方の応募を心よりお待ちしております。

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸

2021年センター長挨拶

福間病院の精神科専門医研修プログラムのホームページに目をとめて頂きありがとうございます。日本専門医機構による新専門医制度が発足して3年が経ちました。その間に当院でも数名の先生が研修を行い、当院の専門医研修の特色が明確になってきました。
当院における専門医研修は徹底した現場でのトレーニングです。スーパー救急病棟の専属医として、研修1年目から急性期の入院症例の主治医となり、退院まで責任をもって担当してもらいます。疾患は統合失調症、うつ病、双極性障害をはじめとして、神経症圏内、発達障害、思春期、老年期症例と多岐にわたります。精神病圏内か、Mood Swingを併発しているのか、発達の偏りがベースにあるのか、はたまた解離性障害として捉えたほうが良いのか・・・診断に苦慮するケースは多々ありますし、家庭環境や経済状況など多くの問題を抱え、介入、支援を必要とすることもあります。数多くの症例を担当し、経験を積みます。先輩医師とチームを組んで、診断、治療方針に悩んだ時には相談、ディスカッションを重ねながら診療を行っていきますので、安心して研修に励むことができます。研修中の若手医師を支えるのは医師同士だけではありません。患者さんを第一に考えた看護を展開する病棟の看護師チーム、健康な面を引き出しリハビリテーションの礎を作る作業療法士、地域社会への復帰を進める精神科ソーシャルワーカー、そして公認心理士などの多職種チームが一丸となって一人一人の患者さんの治療を行います。日々、多職種スタッフと協働し、チーム医療のリーダーとなる素養を磨きます。担当患者さんが退院した後、そのまま引き続き外来主治医になり、回復して地域で暮らしている姿を目の当たりにすることも、非常に貴重な経験です。それぞれの患者さんの持つ強み、レジリエンスを実感することが出来ます。
幻覚妄想が活発で、時に否認があり、不安、混乱に彩られた精神現象の患者さんとコミュニケーションをとり、症状を評価し、信頼関係を築いていくには、精神科特有の面接技術を身に着けていく必要があります。そのためにBasic Communication Training(BCT)、Brief Psychiatric Rating Scale(BPRS)の習得と、それに基づいた病棟回診、また先輩医師の外来診察の陪席などを研修の一環として行っています。経験した症例をまとめて症例検討会で発表、討議する機会も多く回ってきます。こうした環境の中で日々鍛えられ、若手の先生たちはみるみる実力をつけています。「まだまだ分からないことだらけです」と彼らは謙遜しますが、研修開始当初からの成長には目を見張るものがあり、3年間終了した先生にいたっては患者さんや病棟スタッフからの信頼も厚く、頼もしい若手のリーダーに成長しています。 専門医研修制度に基づき3年間のうち半年から1年(連携プログラム枠なら1年半)、連携病院で研修を行う必要がありますが、認知症、依存症、リエゾン、司法精神など、当院では症例数の少ない疾患圏をカバーし、それぞれの地域で質の高い医療を行っている病院に連携病院になって頂いています。結果として3年間で幅広い分野の経験、修練を積むことができます。福岡県は専攻医登録のシーリング枠が設定されており専門医を取得するには狭き門となっている現状がありますが、当院での研修を希望する先生たちが資格を取得してキャリア形成をしていけるように、病院を上げて毎年度対応しています。詳しくは見学に来られた際にお尋ねください。 何より、精神科医としての確かな臨床能力を身に付けたいと思っている、やる気のある先生方に来ていただきたいです。精神保健指定医、精神科専門医の取得は必要ですし、そのためのサポート体制は整えていますが、それ以上に本質的に重要なのは、初期の数年間に現場でしっかりと自らを鍛えることです。それが生涯、精神科医として歩んでいく上での土台になるはずです。今の時代に通用する確かな臨床能力を持った精神科医としての一歩を、当院から踏み出してみませんか?精神科臨床医を志す皆さんの見学、応募を心よりお待ちしています。

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸