福間病院 福間病院精神科
専門研修プログラム

医療法人恵愛会福間病院

臨床研修センターだより

精神科面接のアドバイスシート

精神科面接ではいかに患者さんとコミュニケーションをとり、症状評価を行うと同時に治療者患者関係を築き、治療計画に繋げていくかが問われます。精神科面接は精神科医の一番の基本技能といって良いでしょう。外科医なら手術のスキルに該当するほど大切なものです。外科の専攻医は先輩の先生と一緒に手術を執刀し、直接手ほどきを受けます。でも、精神科の専攻医は自分の面接技術を直に指導医にみてもらい、フィードバックを受ける機会が思いのほかありません。基本、精神科面接は患者さんと1対1で行うものだからです。
当院にはUCLA客員教授の山本タカタ先生が、週2日程専攻医の先生方の指導に来て下さっています。山本先生は精神科におけるコミュニケーション技術と症状評価の専門家であり、若手の先生たちにとっては自らの面接技術のアドバイスを受けるまたとない機会です。ただ残念なことに、これまで山本先生と若手とで回診した際に、症例そのものの診断や治療についてのディスカッションはなされるものの、若手の先生の面接技術それ自体にフォーカスした指導はあまり行われていませんでした。症例ベースでのディスカッションなのでどうしても症例そのものに意識が向いてしまうことと、日本人特有の「遠慮」の文化が働いて、自らの面接そのものに指摘をもらうのは駄目出しをもらったような錯覚になってしまう感覚もあり、面接技術のフィードバックは曖昧なものに終わっていました。
それで今年度から工夫したのですが、専用のアドバイスシートを作成し、回診で専攻医の先生が患者さんと面接するのを山本先生に付き添ってもらい、後から面接において「良かった点」と「さらに改善すると良い点」を口頭+書面でフィードバックしてもらうことにしました。これは指導する側もされる側も変に遠慮せずに行えるので好評です。今後も現場の指導にちょっとした工夫を加えて、研修の効率を上げていきたいと思います。

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸

堀先生と山本先生の回診

先週の12月15日(木)、週1日外勤で来られている福岡大学准教授の堀先生に病棟での症例ディスカッションに加わって頂きました。普段はスーパーバイザーの山本先生と若手で患者さんの問診を行ってBPRS(簡易精神症状評価尺度)で精神症状を評価しているのですが、せっかく堀先生が来てくださっているのに、若手の研修に活かさなければもったいない!ということで入って頂きました。
結果、回診はとても盛り上がり、若手の先生たちもすごく勉強になったようです。統合失調症の診断範囲を、古典的で狭義のものにとどめる山本先生と、現在の診断基準に照らし合わせて広めにとる堀先生とのディスカッションを聞くことで、精神科の診断には色々な捉え方、見方があるのだということが実感として分かったようです。一人の指導医に教えてもらうのも良いですが、二人以上の指導医がディスカッションし合うのを聞くのは、また違ったスタイルの学びに繋がるんですね。堀先生にはこれからも定期的に若手の指導にお付き合い頂くことになりました。これからもどうぞよろしくお願いします!

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸

精神病理学は精神科医の骨格

先日、5年目の柴田先生が後輩の先生達に精神病理学の本を紹介してくれました。「症例でわかる精神病理学」(松本卓也著・誠信書房)。僕も知らない本だったのですがAmazonで調べてみると、統合失調症、うつ病、双極性障害、神経症から自閉症まで、代表的な精神疾患の病理学を1冊にまとめた入門書のようです。精神病理学のプロの先生が初学者のために書き下ろしたもので、面白そうでした。早速、医局の共通図書費で1冊購入することにしました。
近年DSM、ICDなどの操作的診断基準や、精神科薬理学に押され気味ですが、「精神病理学」はやはり、精神科医の専門性を支える「骨格」だと思います。患者さんのナラティブな訴えを、精神医学の専門家として、構造的にどう捉えなおすのか?過去の偉大な先人たちが、様々な視点から診断体系を作り上げてきました。「この人の訴える憂うつは内因性の抑うつ気分を呈しているのか?」「頭の中に声が聴こえると言った場合に、それは統合失調症の幻聴なのか?PTSDのフラッシュバックなのか?はたまた解離性障がいの別人格の言葉なのか?」等、日ごろの臨床で浮かぶ疑問の答えは精神病理学の中にあります。音楽家が楽典理論に、システムエンジニアがプログラミング言語に、外科医が解剖学的知識に精通していなければ務まらないように、精神科医の専門性を支える骨格は精神病理学の中にあります。その専門性があってこそ、支持、共感、傾聴などの基本的な姿勢が活きてきます。僕も若い頃から精神病理学の良書にずいぶんと助けられました。ある程度臨床経験を積んだ上で理論に触れると、ハッと目を開かされることがあります。著者が直接自分に語り掛けてきてくれるように感じることもありました。
若手の先生たちには、是非担当した患者さんを一例一例丁寧に診ていって欲しいですし、そのために必要な基礎知識をコツコツと学んでいって欲しいと思います。座学と実学の絡み合いで、臨床家は成長していくんだと思います。

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸

来年度の専攻医を募集しています!

在、来年度4月から当院で専攻医として研修を開始する先生を募集中です。
当院には福岡市~新宮、古賀、宗像遠賀地区から日々たくさんの精神科救急症例が集まってきており、現在6名の専攻医の先生たちが、上級医、アドバイザーの指導のもと、入院・外来主治医としてon the job trainingに励んでいます。
来年度は連携病院にローテートで出向する先生もおり、臨床にやる気のある新人の先生をあと1~2名募集しています。
症例の経験、勉強の機会には事欠かない環境ですので、ご興味のある先生は是非このホームページの「病院見学・お問い合わせ」の欄から申し込んで、見学にいらしてください。
日本専門医機構における専攻医の各専門研修プログラムへの募集期間は例年、10月から11月中旬頃までになる予定です。

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸

学会は精神科医にとって「フェス」のようなもの

日本精神神経学会が福岡で開かれているので参加してきました。精神科界隈で一番大きな学会だけあって、同時並行でA~Q会場まで17箇所でプログラムが進行していて、いや多すぎやろっていう感じなのですが、普段の診療から離れて自分の興味の赴くままに面白そうなシンポジウムを聴講してまわるのは結構楽しいものです。職場で留守番の先生方には申し訳なかったですが、福間病院はお医者さんの数が多いので、学会出張の休みは取り易くて良いです。
自分は主にトラウマ関連のシンポジウムに参加してきました。トラウマはEMDRとかトラウマ焦点化治療とか特殊な技術が必要で、敷居が高いって印象を持っていたのですが、トラウマを直接扱わない技法とか、分かりやすいリーフレットを用いた心理教育とかあって、日常診療でももっと気軽に取り扱うことが出来るんだなと分かって気持ちが楽になりました。久留米大学の大江美佐里先生がシンポジウムやワークショップを主催して、一般臨床医へのトラウマ診療の啓蒙活動を積極的になされているようでした。大学の准教授の先生で色々なお仕事を抱えて忙しい中、このようなすごく意味のある活動をされていて本当に凄いなと思います。ワークショップの後で勉強になりましたと名刺渡してご挨拶させてもらって、あとで著書を買いました。学会って、新たに興味を持って勉強しようと思える分野が増えるので良いきっかけになります。
学会会場をウロウロして、知り合いの先生にばったり会って「ご無沙汰です」って挨拶したり、書籍コーナーをのぞき込んでみたり、普段名前しかしらない高名な先生の講演をクーラーの良く効いた大会場でライブで聞いたりして雰囲気を楽しみました。言ってみれば、学会は精神科医にとっての「フェス」みたいなものなんだろうと。
 普段、職場でいつもの診療をやっているだけだと、どうしても視野は狭窄の方向に傾くのですが、学会への参加は視野を広げるのにもってこいです。広い会場を何千人の参加者がゾロゾロ、ウロウロ、ワイワイしていて、この人たち全員精神科医なんだな~と思うと、あらためてなんか凄いなと思います。で、その先生たちが思い思いのシンポジウムを聴講していて、自分もその中の一人ってことで、広い精神医療業界に身を置いて、自分の立ち位置を模索していることがリアルに体感出来て、やっぱり現地参加っていいなと思いました。聞き逃してしまった気になるシンポジウムは、あとからオンデマンドで聴講しようと思います。つくづく便利な時代になりました。

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸

大隈先生の摂食障害講義

ちょっと前の話になりますが副院長の大隈和喜先生が、若手医師向けに摂食障害の講義をしてくれました。大隈先生は心療内科医として長年、摂食障害の診療に携わってこられました。摂食障害、中でもその中核群である神経性食欲不振症は、精神疾患の中でも特に治療の難しい大変な病気です。僕も若い頃、精神力動的なアプローチからの治療の本などを読んで、それはそれで面白かったのですが、よっぽど患者さんと(精神的に)取っ組み合いのような治療者患者関係になって、山あり谷ありの道筋を辿らなければ治っていかないんだろうと感じていました。そのまんま、摂食障害の治療にしっかり携わる機会は無くこの年になるまで仕事してきたわけですが、大隈先生の講義を聞いて、色々「そうだったのか」と目からウロコが落ちる思いがしました。
大隈先生が、先生のお師匠さんの深町建先生から学んだ理論によると、典型的な神経性食欲不振症の経過は「発端→やせの蜜月期→蜜月期の破綻→過食衝動の出現、悪い自分(人格の分裂)の出現」という決まったパターンを辿るようです。それぞれの経過の出現にはすべて生理学的な理由があり、例えば「やせの蜜月期」は飢えかけた動物が残りのエネルギーで効率良く食べ物を見つけようと集中力のスイッチを入れている状態にあたるそうです。あたかも人格が分裂したようになって「悪い自分」が出現し、行動をコントロールしてしまう心理状態は、摂食障害の患者さんでは高頻度に体験されることのようです。また、病気を「悪い自分」と見立てて外在化して立ち向かう手法は、治療者、患者ともに取り組みやすい枠組みだと思われます。患者さんとご家族へ、病気の正しい知識と明確な治療法を提示した上で、しっかりとした枠組みの中で治療を行っていくスタイルは、無意識の転移・逆転移を取り扱う力動的アプローチと違ってクリアカットで分かりやすく、若手医師にも取り組みやすいものだと思いますし、近年は精神科でもトラウマ・インフォームド・ケア等の心理教育的手法が発達してきて、こちらの治療スタイルに寄ってきているのではないかと感じます。詳しい理論を知りたい場合は、古書ですが深町先生の著作を読むと良いようです(「摂食異常症の治療」「続・摂食異常症の治療」深町建,金剛出版)。
「理論を理解した上で新患の陪席についてもらったら、何をやっているのかよくわかるから」と若手向けに行っていただいた講義で、僕が先生の講義を聞くのは2回目ですが、あらためて勉強になりました。すでに先生の診療の陪席についている若手もいるようです。大隈先生、これからもよろしくお願いします!

福間病院 臨床研修センター長
鈴木 宗幸